骨粗鬆症

【骨粗鬆症】ステロイド治療で骨粗鬆症。続発性骨粗鬆症について説明します

医師

これからステロイドを使った治療をしていきます。
長期に使用することになるため、骨粗鬆症治療が必要です。

患者

骨密度は大丈夫と言われました。
あまり薬は増やしたくありません。

医師

ステロイド治療を開始して数ヶ月で8~12%も骨量が減る」と言われていて骨折リスクがぐんと上がります。
ご年齢的にもステロイド5mg以上を3ヶ月以上使用する場合は骨粗鬆症治療を行っておいた方がいいです。
月1回内服のものや、点滴のものもありますので、それでしたらいかがでしょうか。

患者

それだったら続けられそうです。

宜しくお願いします。

目次

はじめに

骨粗鬆症は高血圧や糖尿病と比べると、まだまだ認知度が低い疾患です。しかし、骨粗鬆症は年齢を重ねるにつれてほぼ必ずかかる病気であり、慢性疾患として同様に注意が必要です。

気付きにくい病気ですが、放置すると骨折を引き起こし、日常生活に大きな影響を及ぼします。高齢者では骨折が命に関わることもあり、若い方でも治療に時間と労力がかかります。骨折は一度起こると連鎖しやすいため、健康寿命を保つためにも骨粗鬆症の治療は重要です。

続発性骨粗鬆症について

骨粗鬆症になりやすい病気や薬が存在し、ステロイドはその代表例です。ステロイド性骨粗鬆症は骨折リスクが高く、ガイドラインに沿った予防と治療が大切です。

私の外来では、患者様が「骨折を起こさずに一生を過ごせるように」との思いで治療にあたっています。診察の際には骨密度だけでなく、既存の病気や使用薬から骨折リスクを把握しています。骨の強さは年齢と共に低下しますが、特に骨粗鬆症になりやすい原因があります。これを続発性骨粗鬆症といいます。

骨粗鬆症の原因(病気関連)
  • 糖尿病
  • 慢性腎不全
  • 肺気
  • 関節リウマチ
骨粗鬆症の原因(治療関連)
  • ステロイド治療
  • ホルモン治療
  • 抗糖尿病薬、降圧薬

最近はステロイドによる骨粗鬆症のリスクが広く知られるようになり、ステロイドの量、治療計画によって、あらかじめ骨粗鬆症治療をすることが推奨されています。

これらはいずれも日常的にある病気と治療薬であり、誰しもが骨粗鬆症になるリスクを抱えています。

また骨の強さは

  骨密度+骨質

で決まってきます。ステロイドでは骨質が如実に低下します

骨密度はDEXAと言われる検査で分かりますが、骨質は現状では分かる検査がありません。

そのため、骨密度の結果によらず、ステロイドの使用量や合併症に応じて骨粗鬆症治療を行う必要があります。

ステロイド性骨粗鬆症

長期のステロイド使用は骨粗鬆症の代表的な副作用の1つであり、ステロイド使用者の30~50%が骨折を起こしていたとの報告もあります。そのため、ステロイド使用時には骨粗鬆症治療を予防的に開始することが推奨されています。

ステロイドは関節リウマチなどの炎症性疾患でよく用いられますが、骨粗鬆症のリスクを認識していないまま放置されることがありました。近年では啓蒙が進み、治療が始められることが多くなっています。

骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2015年版より

ステロイドユーザーに対する骨粗鬆症治療については、通常とは異なります。

ステロイド性骨粗鬆症のリスク判定

年齢

骨折歴

ステロイド量

骨密度

で点数付けを行い、治療を開始します。

またステロイド治療開始後 非常に早期に骨密度が低下していき、数ヶ月で8~12%も骨量が減るといわれています6)

そのため3ヶ月以上、ステロイド7.5mg以上の使用することが予想されるような方はステロイド治療したタイミングから骨粗鬆症治療は欠かせません。

最初から積極的に骨折予防に介入していく必要があります。

ホルモン治療と骨粗鬆症

乳癌や前立腺癌の患者に対するホルモン治療が骨粗鬆症のリスクとなってきます。

女性は閉経によって骨密度がぐんと低下していくわけですが、ホルモン治療によって閉経と同じような環境になってしまい、骨が脆くなっていきます。

5年間のホルモン治療で骨密度が腰椎で6%、大腿骨で7%程度低下すると言われています。ステロイドによる骨密度の低下ほどではありませんが、緩徐に低下していきます。

まず、適度な運動をカルシウムの摂取が大切ですが、1年に1回程度の定期的な骨密度検査を行っていき、骨粗鬆症の基準に入ってきた際には治療を開始する必要があります。

糖尿病に伴う骨粗鬆症

糖尿病や慢性腎不全は生活習慣病として骨粗鬆症のリスクを高めます。

糖尿病では高血糖により骨の質が劣化し、特に1型糖尿病の患者では大腿骨近位部骨折のリスクが6.9倍と報告されています。糖尿病のコントロールが良好であればリスクは軽減されます。

糖尿病においては特にリスクと言われているのは

糖尿病患者での骨粗鬆症リスク
  • 罹患期間(かかっている期間)が長い
  • HbA1c>7.5%
  • インスリン治療中

といった患者です。

HbA1cが糖尿病患者のコントロール基準として使用されますが、それが7.5未満のコントロールが良好な方は不良な患者よりもリスクが軽減されると言われています。

糖尿病をコントロールすることが出来れば骨を作る能力は改善するため、骨粗鬆症の予防のためにも糖尿病の治療をしっかりと受けて頂くことが大切です。

2型糖尿病患者における治療開始基準

骨粗鬆症の診断にはYAM値(若い人と比べてどの程度の骨か)が用いられますが、通常はYAM値70%以下が骨粗鬆症の診断です。

糖尿病患者では骨折リスクが高いため、上記のリスクがある方はYAM値70~80%でリスクに応じて治療開始するべきと言われています。

骨粗鬆症治療で一般的に用いるSERM、ビスホスホネート製剤、テリパラチドのいずれも糖尿病性骨粗鬆症に有効と言われておりますので、患者様の状況に応じてその中から選択いたします。

慢性腎不全

慢性腎不全は年齢と共に増える疾患で、骨折リスクが高まります。

DEXAという骨密度の検査の数値では慢性腎不全の方の骨折リスクを正確に測れないとも言われていて、慢性腎不全の患者は骨密度の数値以上に骨が脆い可能性があります4)。

例えば、しばしば使用されるデノスマブ(プラリア)では慢性腎不全ではカルシウムの低下が起りやすいと言われています。

そのため事前に骨の代謝マーカーで骨の吸収が過剰なタイプではないか確認して、そのリスクをチェックし、事前に予測しています。

腎臓が悪いと薬剤の副作用が出やすいため、慎重な薬剤選択が必要です。

リスクと骨密度検査DEXA

以上のようにステロイド使用、糖尿病、慢性腎不全といった骨粗鬆症のリスクの把握するためにも骨密度の検査を行っておくことが勧められます。

基本的には、ビスホスホネート製剤といわれるお薬が第一選択になりますが、骨粗鬆症の度合いを調べておくことで、より密な治療を行うことが出来ますし、治療効果の判定を行うことが出来ます。

骨粗鬆症治療と他科との連携

整形外科では骨折と関わることが多いため、骨粗鬆症治療と深い関係があります。骨粗鬆症は社会的な問題であり、医師として骨折を予防することで健康寿命を延ばすことは非常に重要です。そのため、骨折リスクについて他科の医師とも情報を共有し、早期に骨粗鬆症患者を見つけ、適切な治療を行うことが大切です。

現状では、骨粗鬆症治療における多科連携が十分に取れていないことが課題となっています。整形外科だけでなく、内科やリウマチ科など他の診療科とも密に連携し、情報を共有することで、より効果的な治療を提供できる環境を作ることが必要です。

私自身も、周囲の医師と積極的にコミュニケーションを図り、連携を強化することで、骨粗鬆症患者に対してより良い治療を提供できるよう努めていきます。

まとめ

日常的に存在する糖尿病や慢性腎不全、ステロイド治療は骨粗鬆症を誘発し、骨折リスクを上昇させます。リスクのある患者は定期的に骨密度を測定し、早期発見・治療が骨折予防に重要です。

参考文献

1. Saito M, Fujii K, Mori Y, et al. Role of collagen enzymatic and glycation induced cross-links as a determinant of bone quality in spontaneously diabetic WBN/Kob rats. Osteoporosis International 2006;17(10):1514-23. doi: 10.1007/s00198-006-0155-5

2. Vestergaard P. Discrepancies in bone mineral density and fracture risk in patients with type 1 and type 2 diabetes—a meta-analysis. Osteoporosis International 2007;18(4):427-44. doi: 10.1007/s00198-006-0253-4

3. Okazaki R, Totsuka Y, Hamano K, et al. Metabolic Improvement of Poorly Controlled Noninsulin-Dependent Diabetes Mellitus Decreases Bone Turnover1. The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism 1997;82(9):2915-20. doi: 10.1210/jcem.82.9.4258

4. Jamal SA, Hayden JA, Beyene J. Low Bone Mineral Density and Fractures in Long-Term Hemodialysis Patients: A Meta-Analysis. American Journal of Kidney Diseases 2007;49(5):674-81. doi: 10.1053/j.ajkd.2007.02.264

5. Weinstein RS. Glucocorticoid-Induced Bone Disease. New England Journal of Medicine 2011;365(1):62-70. doi: 10.1056/nejmcp1012926

6. Staa TPV, Staa TPV, Staa TPV, et al. The Epidemiology of Corticosteroid-Induced Osteoporosis: a Meta-analysis. Osteoporosis International 2002;13(10):777-87. doi: 10.1007/s001980200108

7. Eastell R, Adams JE, Coleman RE, et al. Effect of Anastrozole on Bone Mineral Density: 5-Year Results From the Anastrozole, Tamoxifen, Alone or in Combination Trial 18233230. Journal of Clinical Oncology 2008;26(7):1051-57. doi: 10.1200/jco.2007.11.0726

関連記事