高齢化に伴う骨粗鬆症によって起こる脆弱性骨折患者数は経年的に増加してきています。
なかでも 大腿骨近位部骨折や脊椎椎体骨折は、患者の生活機能や生活の質(QOL)を低下するのみでなく、生命予後悪 化をもたらす独立した要因です。
その他の脆弱性骨折も骨折自体が大腿骨近位部骨折や脊椎椎体骨折の 2 次性骨折のリスクを上昇させる。
さらにこれらの脆弱性骨折の治療費は各種疾患の中で最も大きく、骨折例に対 する介護費用も経年的に増加しています。したがって脆弱性骨折の予防は喫緊の課題です。
一方で 骨粗鬆症による骨折予防効果は高く、ビスホスホネート製剤を使用することで相対危険度を 50 ~ 67%引下げるとされています。
ただし、骨粗鬆症の治療でよく使用されるビスホスホネート製剤の使用中に顎骨壊死が発生することが報告されています。
またビスホスホネート製剤と作用の異なる骨吸収抑制剤であるデノスマブ(プラリア)においても顎骨壊死が発生することが報告されています。
ビスホスホネート製剤などによる顎骨壊死を様々な呼び方をされてきましたが、現在、medication-related osteonecrosis of the jaw(MRONJ)という呼び方に統一されました。
MRONJについては骨粗鬆症治療において、広く注意勧告がされており、骨粗鬆症治療の際に注意が必要な病態です。
今回、日本口腔外科学会が2023年に新しく顎骨壊死についてのポジションペーパーを作成され、報告されました。
骨粗鬆症治療前の歯科治療、治療中の歯科治療、医歯薬連携について議論されており、その内容を中心に解説します。
目次
MRONJの診断
骨吸収抑制剤では破骨細胞の活性化を阻害することにより骨密度を増加させる。
逆に、これにより骨のリモデリングが抑制され、新しい骨に置き換わることなく骨細胞の寿命を迎え、壊死に陥りやがて MRONJ が発症するとされています。
その他、細菌感染や血管新生阻害によって起こるとされています。
定義としては、以下の 3 項目を満たした場合に MRONJ と診断する。
- BP や Dmab 製剤による治療歴がある。
- 8 週間以上持続して、口腔・顎・顔面領域に骨露出を認める。または口腔内、あるいは口腔外から骨を触 知できる瘻孔を 8 週間以上認める。
- 原則として、顎骨への放射線照射歴がない。また顎骨病変が原発性がんや顎骨へのがん転移でない。
顎骨壊死のリスク因子
- ビスホスホネート製剤の使用
- ステロイド使用
- 歯周病
- 糖尿病
- 自己免疫疾患
- 貧血
- 喫煙、飲酒、肥満
など多様な因子が関わっていると言われています。
いくつもリスク因子がある場合は、特に治療中の顎骨壊死の発症に注意する必要があります。
発症頻度
骨粗鬆症で使用されるビスホスホネート製剤の使用量においては比較的発症率は少ないと割れています。
AAOMS 2022 では、骨粗鬆症患者での BRONJ の発症リスクは 0.02% ~ 0.05%でありプラセボ群に登録された患者の ONJ の発症リスク(0%~ 0.02%)と同程度であるという様にも言われています。
日本においては、非薬剤性の顎骨壊死の推定発症率が 0.0004% であったのに対し、低用量での BRONJ では 0.104%と報告している研究があり、欧米と比較して発症率が高い可能性はあります。
歯科治療(抜歯)と顎骨壊死
「原則として抜歯時に休薬しないことを提案する」
抜歯をはじめとする侵襲的歯科治療は、 従来から MRONJ 発症の最大のイベントとして注視されてきました。
しかし抜歯の適応となるような歯科疾患の多くは、すでに顎骨に細菌感染を伴っていることが多く、最近では抜歯だけが MRONJ 発症 の主たる原因ではないと言われています。
すでに抜歯前に潜在的に MRONJ を発症しており、 抜歯によって MRONJ が顕在化したケースもあると考えられています。
休薬のために抜歯が延期されることによる歯性・顎骨感染の進行が懸念される事、休薬が長期に及んだ場合明らかに骨粗鬆症性関連骨折のリスクが上昇する事など、抜歯の際に休薬するメリットも得られないことから
「原則として抜歯時に休薬しないことを提案する」
と今回のポジションペーパーではされています。
医歯薬連携~投与開始前の歯科治療~
骨粗鬆症の治療開始前に必要な侵襲的歯科治療を終えていることは MRONJ の発症予防に効果的であるとわれています。
そのため、治療開始する前に歯科治療を行い、顎骨の感染性疾患は可能 な限り取り除いておくことが重要で、抜歯をはじめとする侵襲的歯科治療は、可能な限り ARA 投与開始前に終えておくことが望まれます。
① 1 年以上歯科受診歴がない
② かかりつけ歯科医がいない
③咀嚼(そしゃく)に何らかの問題を抱えている
④口腔内に何らかの自覚症 状がある
といった場合には事前に歯科へ紹介しておくことが勧められます。
特にステロイドや糖尿病などを合併している場合は、MRONJ の重症化リスクが高くなるため、歯科医師との文書の交換を行うこと が必要です。
まとめ
ビスホスホネートを始めとする骨粗鬆症治療薬による骨折予防効果は高く、比較的顎骨壊死のリスクは少ないと言えます。
しかし、顎骨壊死は起こってしまえば治療に難渋する病態であり、事前の歯科治療を始めとする医歯薬連携が必須と言えます。