生物学的製剤は色々あるようですが、違いが分かりません。
私にはどれがいいですか?
生物学的製剤にはTNF阻害薬、IL6阻害薬、CTLA4-Ig阻害薬の3種類があります。
またJAK阻害薬といわれる内服薬も出てきています。
メトトレキサートを使用出来ない方にはIL6阻害薬が良いと思います。
どれが一番効果がありますか?
いずれも同等の有効性が示されています。
患者さんの状態に応じて合う合わないがありますので、患者さんに合せて提案いたします。
IL6阻害薬使用中は何に注意すればいいですか?
IL6阻害薬ではCRPというバイ菌感染の際に上昇する数値が上がらなくなりますので、感染の際に採血が当てにならなくなります。
我々医師側も注意しますが、咳・痰や発熱などの症状が出てきた場合は早めに医師にご相談下さい。
関節リウマチの治療薬は様々な種類がありますが、生物学的製剤は以下の3つに大きく分類されます:
- TNF-α阻害薬
- IL-6阻害薬
- CTLA4-Ig製剤
今回はIL6阻害薬についての特徴について説明します。
目次
IL6阻害薬の特徴について
IL-6は日本人の岸本忠三が発見したタンパクであり、免疫反応や炎症反応の調節に関わっています。IL6は免疫反応や炎症反応の調節に関わっており、IL6の受容体を中和することによって炎症を抑えるお薬になります。
関節リウマチに対して生物学的製剤として初めて使用されるようになったのが、TNF-α阻害薬のインフリキシマブ(レミケード)であり、その後2005年にTNFα阻害薬のエンブレルと同時期に使用出来るようになったのがトシリズマブ(アクテムラ)になります。
その後、サリルマブ(ケブザラ)が2018年に登場し、現在2種類が使用可能となっています。
トシリズマブ(アクテムラ)
- 商品名:アクテムラ
- ヒト化キメラ抗体
- 発売:2005年6月であり、効果や副作用に関して長期的な成績がある
- 使用方法:点滴 or 皮下注射
- 頻度:点滴4週に1回(8mg/kg)、皮下注射2週に1回
- 値段:バイオシミラーは無いもののTNF阻害薬のバイオシミラー並に比較的安価
- 皮下注射 1キット 32608円(3割負担で月19564円)
- その他特徴
点滴投与時間1時間とレミケードの2時間よりも短いが、投与後1時間程度の観察が推奨される
皮下注射については基本は2週に1回だが、効果不十分の場合には1週に1回に短縮可能である
値段も安く、効果不十分な場合には投与期間を短縮することが可能ですので、薬剤の選択が限られてくる患者さんに有効な薬剤です。
サリルマブ(ケブザラ)
- 商品名:ケブザラ
- 発売:2018年2月
- 完全ヒト型抗体
- 使用方法:皮下注射
- 頻度:2週間に1回200mg 状態によって 150mgに減量
- 値段:バイオシミラー無いが、比較的安価
150mg 薬価 36230円(3割負担 月 約21738円)
200mg 薬価 47958円(3割負担 月 約28774円) - その他の特徴
生物学的製剤では帯状疱疹が問題となりますが、ケブザラでは帯状疱疹が他よりも起こりにくい。
200mgが通常投与量だが、150mgに減量することで、費用を抑えることが出来る可能性がある。
また、注射開始から早期に効きやすいという特徴がありますので、早く関節症状を抑えたいという方にお勧めです。
IL6阻害薬の優れている点
- 長期の成績あり
アクテムラは長期使用されており、有効性や副作用のデータが豊富に蓄積されています。
- メトトレキサート非併用でも有効
TNF-α阻害薬はMTX非併用だと効果が落ちることがありますが、IL-6阻害薬は単独でも高い有効性を示します。MTXを使用できない患者にも適しています。
- 心不全でも使用可能
TNF-α阻害薬は心不全の患者には使用が難しいですが、IL-6阻害薬は心不全の有無にかかわらず使用できます。
- 比較的安価
バイオシミラーがないにもかかわらず、比較的安価であり、若年層の患者にも使いやすい薬剤です。
IL6阻害薬のよい適応
IL-6阻害薬は以下のような患者に特に適しています:
- リウマトイド因子陽性、または抗CCP抗体陽性
リウマトイド因子陽性 もしくはACPAが陽性 の場合にはIL6阻害薬の継続率が高かったと報告されています。 - CRP高値の症例
CRP高値の症例においてIL6阻害薬の継続率が高かったと報告されています。 - 貧血患者
IL6阻害薬は他の薬剤と比べて、貧血改善に寄与すると報告されています1,2)。 - メトトレキサート使用不可の患者
IL-6阻害薬は高齢の関節リウマチ患者が増える中で、メトトレキサートが使えない症例にも有効です。
以上のように日本で開発されたIL6阻害薬は長期的に安全に使用出来る有効な薬剤である可能性を秘めています。
IL6阻害薬の問題点
- CRPが炎症とは無関係に陰性化する
CRPというものは、感染や関節リウマチの悪化によって上昇する数値があります。これは感染の発見やリウマチの活動性の1つの指標になります。
このCRPがIL6阻害薬を使用すると陰性化してしまい、感染や活動性の悪化でもCRPが上がらないために、疾患活動性の評価が難しくなり、感染症の発見が遅れる可能性が有ります。
しかし、発熱や咳・痰などの症状は出るので、症状がでた場合には疑って検査を行っていく必要があります。
- 消化管穿孔
大腸憩室炎の悪化が原因と言われており、憩室を多数持っている患者さんにはリスクとなるため注意が必要です。
腹痛が出てきた場合には消化管穿孔を念頭において、検査をする必要がありますので、すぐに医療機関にご相談ください。
- 脂質代謝異常
代謝異常が出てきた場合には、薬剤や食事などによる治療を行う事で対応可能です。
アクテムラとケブザラの違い
アクテムラ | ケブザラ | |
標的 | IL6受容体 | IL6受容体 |
投与方法 | 注射か点滴 | 注射 |
作成方法 | 遺伝子組み換え | トランスジェニックマウス |
構造 | ヒト化抗体 | 完全ヒト型抗体 |
臨床効果 | 同等 | 同等 |
有害事象 | 同等 | 同等 |
アクテムラとケブザラ自体の効果と副作用には大きな違いはありません。
作成方法が異なり、ケブザラは完全ヒト型、アクテムラは90%ヒト型ですので、ケブザラはアクテムラよりもアレルギー症状や副作用が少なく、2次無効が少ないのではと言われることがありますが、臨床試験においては大きな差はありません。
いずれもIL6受容体抗体で、メトトレキサートが使用出来ない場合も、2次無効が出にくいと言われています。
まとめ
IL-6阻害薬(アクテムラ、ケブザラ)は、TNF-α阻害薬が使いにくい患者にも効果を発揮します。メトトレキサート不要で効果が得られるため、高齢化社会において有効な薬剤です。IL-6阻害薬は日本で開発され、長期的に安全に使用できる薬剤として期待されています。
参考文献