関節リウマチの治療では、病状の把握や薬剤の副作用確認のために定期的な血液検査が重要です。患者さん自身も検査データに関心を持つことで、治療に対する理解が深まり、医師との共通認識を持つことができます。
リウマチの勢いを評価するため、また薬の副作用や他の病気の合併をチェックするため、安定していても定期的な血液検査をうけることが必須です。
以下に、関節リウマチでよく確認される血液検査データの見方を説明します。
目次
「炎症」を示す値
関節リウマチの勢いが強くなると関節で炎が燃えさかるような状態となって、関節が腫れたり、痛みが出たりする状態になります。このような状態を炎症といいます。
「炎症が強い」≒関節リウマチの勢いが強い
と考えて下さい。この炎症の状態を示す代表的な血液検査項目は以下の通りです。
- CRP(C 反応性たんぱく): 炎症があると増加します。リウマチの活動性が高まると数値が上昇します。
- ESR(赤沈値): CRPに比べて変動は遅いですが、炎症の指標として用いられます。
CRPやESRが高い場合はリウマチがコントロールされていない可能性があります。
実際、これらの数値は「総合的活動性指標」を考える際に用いる検査値になりますので、医師側もこの数値をみてある程度関節リウマチの病勢を把握しています。リウマチ診療ではきわめて大切な検査値です。
しかし両方の値はリウマチだけでなく、体に何かが起ると高値になってしまいます。たとえば風邪や肺炎などの感染症、歯の治療など小手術を受けた後も高くなってきます。
そのため CRP や ESR が高くてもリウマチが悪化したとは言えないことがあり、症状やその他の数値を合わせて判断しています。
「リウマチの素因(体質)」を示す値
関節リウマチの診断に役立つ検査項目は以下の通りです。
- RF(リウマトイド因子): リウマチの診断に用いられますが、他の疾患でも陽性になることがあります。
- 抗CCP抗体: リウマチの診断に特に重要ですが、リウマチの勢いを反映するわけではありません。
これらは関節リウマチかどうかの診断において非常に重症な検査になります。
RFや抗CCP抗体だけで関節リウマチと診断することはありません。ただ関節炎といって関節が腫れる病気は色々ありますので、関節リウマチかどうかを判断する上での1つの材料になります。
しかしリウマチ(病気)の勢いを反映しているかどうかは患者さんにより異なりますので、これらの数値が変化したからといって治療方針が変わることはありません。
そのため、
- 特に抗 CCP 抗体は毎回の採血ではチェックしません。
- 体質をかえることは難しいので、リウマチが落ち着いても陰性化しないことが多いです。陰性化しない、あるいは低下しないことを心配しすぎないようにしてください。
- RFは健康の人でも、またはほかの病気(たとえば膠原病)でも陽性と出ることがありますので、RF が陽性だからといってすぐにはリウマチとは診断できません。
「関節の破壊」に関連する値
関節破壊に関連する値としてはMMP-3(マトリックスメタロプロテイナーゼ-3)が代表的です。
MMP-3(マトリックスメタロプロテイナーゼ-3): 関節を溶かす酵素で、将来の関節のびらん性変化のリスクを示します。ステロイドの服用や関節への負担でも上昇するため、総合的に判断します。
注意としては以下になります。
- ステロイド(プレドニン、プレドニゾロン)を服用しているとそれだけで高くなります。
- リウマチだけではなく、関節炎を起こすと上昇します。
- 仕事や生活上で関節に負担がかかっていたり、骨折した場合にも高くなります。
「薬の副反応」に関連する値
- 肝機能: AST(GOT)、ALT(GPT)、γGTPで測定します。リウマチ薬の副作用で肝機能が低下することがあります。
- 白血球数(WBC)と貧血(Hb): 抗リウマチ薬で白血球が減少したり、リウマチの活動性で貧血が進行することがあります。
- 腎機能: クレアチニン(CRE)やeGFRで測定します。抗リウマチ薬の影響やリウマチ自体で腎機能が低下することがあります。
肝機能
AST(GOT)、ALT(GPT)は肝臓の細胞で作られる酵素になりますが、肝臓の細胞が何かしらで破壊されると数値が上昇します。ASTは筋肉の中にも含まれていますので、体の筋肉が壊れた場合も上昇します。
γ-GTPは、肝臓の解毒作用に関係している酵素になります。肝臓や胆管の細胞がこわれると血液中にγ-GTPが流れてきます。アルコール性脂肪肝などでも上昇します。
肝機能が悪くなる原因として多いものは以下になります。
- アルコール性(飲酒)
- ウイルス性肝炎
- 脂肪肝
- 薬剤の副反応
リウマチ治療薬ではメトトレキサート(リウマトレックス)をはじめとした抗リウマチ薬、鎮痛薬などで肝臓が障害されることがあります。過度に上昇してくるようであれば、原因薬剤の調整が必要です。
また肝臓は悪くなっても痛くなることがありません。そのためお薬を安全に継続していくためにも、薬剤の副反応が出ていないかどうかを知るために定期的な血液検査は必要です。
白血球数・貧血
白血球数は、WBC と記載されているものです。一部の抗リウマチ薬ではこの値が減ってくることがあります。
またリウマチの勢いが強いと貧血 (Hb:ヘモグロビン) が進行することがあります。胃潰瘍など胃腸系の問題、婦人科的な問題があっても貧血は起こりますので原因はすぐに特定できないことが多いです。
白血球数が薬剤によって過剰に減ってきている場合には疑わしい薬剤を減量・中止します。
腎機能
腎機能についてはクレアチニン(CRE)(あるいは eGFR)という値で示されます。
リウマチをしっかり治療しないと「アミロイド」という悪い蛋白が腎臓にくっついて腎機能が悪くなってしまうことがありますが、一方で一部の抗リウマチ薬で腎機能が悪化する場合もあります。
筋肉量にもよるので、一概にはよりませんが、基本的にはeGFRは大きいほど腎機能が良いのです。
腎機能が悪い(eGFR が低いか CREが高い)場合には副作用が出やすくなるため、メトトレキサートなどの抗リウマチ薬を注意して使用する必要があります。
その他
KL-6
リウマチの合併症として重要なものの 1 つに「肺線維症」があります。肺線維症は肺の一部が固くなって肺活量が少なくなる病気です。リウマチは関節を主に障害する病気ですが、目や肺などほかの体の部分に症状が出ることもあります。
KL-6 は肺線維症の度合いを表す値とし時折チェックしています。その他定期的に胸部 X 線写真を撮影して状態を確認します。
コレステロール、血糖値
コレステロールは体の中の脂分を示す値です。T-CHO (総コレステロール)、HDL-CHO (善玉コレステロール)、LDL-CHO(悪玉コレステロール)などを測定します。
直接リウマチの勢いとは関係しませんが、欧米のリウマチ患者さんでは心臓疾患が多いといったデータがありますので、こういった生活習慣病(高血圧、脂質異常症、糖尿病など)がある方は注意して頂く必要がありますし、治療しておく必要があります。
検査値を見る上での注意点
検査値には基準値があり、それを超えると「H」、下回ると「L」と表示されます。
ただし、 検査値は少々異常でも体に影響のないものもありますので、過度に心配しないで不明な点は主治医に聞いてみて下さい。
リウマチ治療は、検査値ではなく、患者さんの症状を治すことがより重要です。炎症反応が陰性であってとしてもリウマチの勢いが残っていることがありますので、あくまで検査値は「補助的な指標」であり、診察所見や X 線所見
と総合して考えることが大切です。
まとめ
関節リウマチの治療には、定期的な血液検査が欠かせませんが、数値だけでなく患者さんの症状全体を見ていくことが重要です。不明な点があれば、主治医に相談して適切な治療を続けていくことが大切です。