橈骨周囲が変形して腫れていますね。骨折しているかもしれません。
レントゲンを撮影して確認しましょう。
分かりました。お願いします。
レントゲンを見ると橈骨遠位端骨折があって、ずれています。
幸いずれは大きく無さそうなので手術は必要なさそうです。
ずれを治してから、ギプス固定を行う必要があります。
目次
手首の痛みと腫れは橈骨遠位端骨折?
手首の痛みと腫れ、もしかして橈骨遠位端骨折かもしれません。
驚くことに、日本では年間11万人の人々がこの骨折を経験しており、大腿骨近位部骨折と並んで日常的に皆さんが遭遇しやすい骨折です。
放置すると変形が残り、痛みが残ったり日常生活に支障が出てきます。
今回は、橈骨遠位端骨折の診断方法、治療法、そして予防策について詳しく説明します。
橈骨遠位端骨折は全骨折の20%
橈骨遠位端骨折は全骨折の中に占める割合が16〜20%とされています.
骨粗鬆症患者は全国に1300万人いると言われていますが、橈骨遠位端骨折は骨粗鬆症を背景とする高齢者に多い骨折で、高齢化社会が進むにつれて増えていく骨折です。
全国には1300万人の骨粗鬆症患者がおり、特に高齢者に多く見られる骨折です。が進んでいます、その数は増加の一途をたどっています。
転倒しそうになったとき、手づくりのは反射的な動作ですよね。子供も転倒してこの部位を骨折することがよくあります。
一方、手が出ずに尻もちをつくるようになりますと、腰椎圧迫骨折や大腿骨頸部骨折や骨盤骨折の危険が生じます。
橈骨遠位端骨折とは
手首には二つの重要な骨、橈骨と尺骨があります。 親指側にあるのが橈骨で、思い出しやすいように「おとうさん骨」と呼びましょう。
「遠位」とは体から遠い場所を意味し、「近位」は体に近い場所を往きます。上の写真のように、手首付近で骨が折れる状態です。
橈骨遠位端骨折というのは橈骨の中で体から遠い場所での骨折のことで、上の写真のような骨折です。
橈骨遠位端骨折は年齢を重ねるごとに起こりやすくなり、70歳以上では若者と比較して男性で2倍、女性で17.7倍もの方が起こると言われています1)。
骨粗しょう症になると、ちょっとこけて手を付いただけでしばしば骨折します。
特に雨の日や寒い日は体が固まって、いつもよりもつまずいて転倒しやすいのでご注意下さい。
橈骨遠位端骨折の診断
基本的にはレントゲンやCTで診断されます。
概ねレントゲンで診断は可能ですが、CTでは骨折型が複雑と思われる場合に細かな情報を得ることが出来ます。
レントゲン検査では分からない骨折には、MRI検査が診断に有用です。
橈骨遠位端骨折の治療
治療は大きく
- 保存的加療:整復して、外固定(ギプスなど)
- 手術加療:プレート固定
の2通りになります。
転位(骨同士のずれ)が大きく、整復を行っても整復位が得られない場合は手術が必要になります。
簡単には
- ずれが小さい単純な骨折 →保存的治療(ギプス等)
- ずれが大きく複雑な骨折 →手術
になります。
手術をするにしてもまずは整復をトライします。
転位が大きいままだと、骨からの出血がひどくなりやすいことと、CRPSといって激しい痛みが出てくることがあります。また受傷から時間が経つにつれて骨折の整復(転位を戻すこと)が難しくなるため早めに整復して固定することが大切です。
時折、数日経過してから受診される方がおられますが、その場合は整復も難しく、痛みや腫れが残りやすいため早めの受診をお勧めします。
治療の際の鎮痛
整復する際はかなり痛みを伴います。十分に鎮痛を得られた方が整復を行いやすいため、鎮痛(痛み止め)を行ってから整復することが大半です。
- 神経ブロック(腕神経叢ブロックなど)
- 血腫麻酔
などがあります。
神経ブロックは超音波装置を用いて神経を見ながら麻酔薬を打つ方法で、片方の上肢全体を麻酔します。
血種麻酔では、丁度骨折部位に麻酔薬を注入する方法で、簡易な方法ですがかなり痛みを取ることが出来ます。
先ほどずれていた骨が良い位置まで整復されています。整復後はギプス固定を行います。
整復不良の場合は、整復具合と年齢によって手術を行うことがあります。
固定方法
固定方法は様々な方法があります。
ギプスで固定する場合もあれば、付け外しもしやすいシーネというものを使用する場合があります。
また肘も含めて固定する方法と前腕のみを固定する方法がありますが、前腕のみの方が整復位が取れていたという報告もあります2)。
ギプス固定していたものの、整復がずれてきたために手術が必要ということもありますので、定期的なフォローが必要です。
いつまでギプスを付けるの?
6週間くらいは固定が必要です。ただ骨癒合の度合いによって調整します。
しっかりとした骨癒合が得られるにはもう少しかかります。
焦って無理をして骨折している部分がずれて手術が必要になることがあるため、医師から許可が出るまで無理はしないようにしましょう。
リハビリテーション(骨折固定中)
骨折後、固定中になによりも患者さんに大切にして頂きたいのは
指や肩をしっかりと動かすこと
です。
骨折と関係の無い部分は使える所ですので、積極的に動かして下さい。
指や肩を使うことで血流が改善して腫脹の軽減にもなりますし、拘縮(固まって動かなくなること)予防に繋がります3)。
もし橈骨遠位端骨折の影響で手首の動きが悪くなったとしても、指さえ十分に使えれば日常生活にはそこまで支障を来しません。
リハビリテーション(手術・固定後)
治療後、固定装具が外れてきたのちに、手首の背屈可動域訓練や握力増強訓練などを行います。
骨折後6カ月までに機能的な回復が大きく進んで、さらに1年以上にわたって徐々に回復が続いていきます。
特に早めの段階でのリハビリが大切になりますので、是非リハビリに通って頂き、自宅でもトレーニングして頂くことをお勧め致します。
年齢を重ねると骨折後の回復に時間がかかってしましますので、長い目でみつつトレーニングしていって下さい。
骨折の合併症
橈骨遠位端骨折の治療における合併症として
- 手根管症候群・正中神経麻痺 しびれや麻痺
- 変形性手関節症
- CRPS 局所的な非常につよい痛み
- 拘縮
- TFCC損傷
- EPL腱皮下断裂
などがあります4)。適切な治療を行ったとしても、どうしても一定の割合で起こります。
あなたは骨粗鬆症です!ドミノ骨折を予防しよう
橈骨遠位端骨折を経験した後、1年以内に大腿骨近位部骨折が起こる危険は通常の5倍と言われています 5)。
橈骨遠位端骨折は初発の脆弱性骨折である多くのことが、その後連鎖的にドミノ骨折が発生します 6)。
橈骨遠位端骨折の患者の多くは、YAMが80%未満となっているため、骨粗鬆症の治療が必要です 7)。
しかし、まだまだ治療が十分に浸透していないのが現状です。
骨粗鬆症を放置すると、脆弱性骨折を覚悟し、日常生活動作(ADL)の低下や生命予後後の危険を招きます。そのため、骨折の連鎖を防ぐことが肝心です。
早く骨粗鬆症治療を始められた方はラッキー
骨粗鬆症は中々気づかずに放置されてしまっている方が多いのが現状です。
整形外科では、腰椎・股関節の骨密度を測定するDEXAが可能な施設が多くあります。当院でも行って参りますので、是非ご相談下さい。
まとめ
橈骨遠位端骨折は骨粗鬆症による骨折で、治療後の二次骨折予防が重要です。
治療にはギプス固定や手術があり、骨密度測定と骨粗鬆症治療が不可欠です。
早期に治療を開始し、健康寿命を伸ばしましょう。
参考文献
橈骨遠位端骨折診療ガイドライン2017